
日本の葬送儀礼文化の中で「枕飾り」は欠かせない大切な作法の一つです。 人が亡くなられた直後、ご遺体を安置する際に故人の枕元に設けられる小さな祭壇、それが枕飾りです。 死者を弔う最初の供養であり、その後の通夜や葬儀へとつながる”大切な出発点”にも位置付けられています。
枕飾りの目的
枕飾りには、故人の安らぎを祈るとともに、遺族が悲しみを整理し心を落ち着かせる役割があります。 また、仏教では、枕飾りを施す事で「僧侶を迎え、読経を頂くための場」を整える意味合いが込められています。 簡単に言えば、故人を静かに供養し、次の儀式の準備を整える「最初の祭壇」なのです。
基本的な飾付の内容
枕飾りの形式は宗旨や地域によって異なりますが、一般的には白木の机や経机を用い、以下のような品を置きます。
・白布をかけた小机
・高杯に盛られ、一膳の箸を立てた御飯(枕飯)
・枕団子(地域によって6個、10個など異なる)
・香炉と線香立て
・ロウソク立てと灯明
・一輪挿しの花(菊、樒などが多い)
これらは簡素ながらも故人の枕元を清らかに整えるためのものです。 「枕飯」は故人のための食事を意味し、「枕団子」はご先祖や冥土への道を象徴すると言われています。
宗派ごとの違い
・浄土真宗では、死を「往生」と捉えるため、枕飯や団子は供えず、香炉・燭台・花立による三具足のみを整えるのが特徴です。
・浄土宗や曹洞宗など多くの宗派では、一般的な枕団子や枕飯をそろえる形が基本。
・神道では仏教とは異なり、白木の八足台に神饌を供え、灯明には榊を用いるなど独自の形式が見られます。
このように、枕飾りは宗旨に応じた形を尊重する事が大切です。
枕経との関わり
枕飾りを整えた後、僧侶を招いての最初のお経「枕経」があげられる習わしがあります(地域・お寺によって異なります。) 枕経は、故人の旅立ちを導き、やすらぎを願うものです。 現代では僧侶の到着時間や予定により省略される場合もありますが、本来は葬送儀礼の始まりとして重要視されてきました。
現代の枕飾りの事情
葬儀が簡略化される現代でも、多くの葬儀社では枕飾りを大切にしています。 形式そのものを知らない方も増えていますが、故人の尊厳を守り、家族の心を支える場としての役割は今日も変わりません。 一方で、病院から葬儀社へ搬送後にすぐ安置室に入る場合には、家族での枕飾りを省くケースも出てきています。
まとめ
枕飾りは「最初の供養の場」であり、故人を思う心を形にしたものです。 形式にとらわれすぎずとも、その背景や意味を知る事で、供養の営みがより深いものとなります。 儀式という大きな流れの出発点として、枕飾りの意義を改めて覚えておくことは、現代を生きる私たちにとっても大切であると言えるでしょう。

